こんにちは!
前回は、コレステロールのバランスを見る上で非常に重要な「L/H比」について、中性脂肪とコレステロール値を合わせて見ることで、ご自身の脂質の状態をより深く理解できることをお伝えしました。
ここまでの内容で、中性脂肪やコレステロールの基本的な見方については、かなりご理解いただけたのではないかと思います。
「よし、じゃあ自分の検査結果を見てみよう!」と意気込んでいる方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、実際の血液検査の結果というのは、教科書に書かれているような典型的なパターンを示すわけではありません。
「あれ?私のデータ、前回のメルマガの説明とちょっと違うぞ?」「これはどう解釈したらいいんだろう?」と、首をかしげてしまうこともあるはずです。
私たちの体は個性があり、その時々の生活習慣、食事内容、体調、さらには遺伝的な背景によっても、血液検査のデータは実に多様な顔を見せます。
そこで今回は、脂質関連の検査結果で時折見られる「ちょっとイレギュラーなパターン」をいくつかピックアップし、その背景に何が考えられるのか、そしてどのように捉え、どう対処していけば良いのかを一緒に見ていきましょう!
これを知っておけば、ご自身の検査結果と向き合う際に、より冷静に、そして深く考察できるようになるかもしれません。
◆ パターン①:「良質な脂質(オメガ3など)を摂っているつもりなのに、なぜかコレステロール値が高いまま…」
「毎日アマニ油をスプーン一杯摂って、お魚も週に3回は食べています。お肉の脂身も避けて、かなり気を使っているつもりなのに、LDLコレステロールがなかなか基準値内に下がらなくて…むしろ高いままで不安です。」
こんなお悩みを持つ方、意外と少なくありません。
オメガ3系脂肪酸を積極的に摂取し、飽和脂肪酸を減らす努力をしているにも関わらず、検査結果が期待通りに改善しない、あるいはLDLコレステロール値が依然として高いまま、というケースです。
これには、いくつかの可能性が考えられます。
まず一つは、遺伝的な要因や生まれ持った体質の影響です。
最も代表的なものに「家族性高コレステロール血症(FH)」という遺伝性の疾患があります。
これは、血液中のLDLコレステロールを細胞内に取り込むための「LDL受容体」というタンパク質の遺伝子に変異があるために、LDLコレステロールが血液中に過剰に溜まってしまう病気です。
この場合、食事療法だけではコレステロール値を十分に下げることが難しく、若いうちから動脈硬化が進行しやすいため、早期の診断と専門医による適切な治療(薬物療法など)が必要になります。
ご両親やご兄弟、祖父母などにコレステロールが著しく高い方や、若くして心筋梗塞や狭心症を発症した方がいる場合は、一度循環器内科や内分泌内科の専門医に相談してみることを強くお勧めします。
また、明確な家族性高コレステロール血症とまではいかなくても、遺伝的にコレステロール値が高めに出やすい「体質」の方もいらっしゃいます。
この場合、一般的な「基準値」を絶対的なものとして捉えすぎず、ご自身の他の健康状態(血圧、血糖値、炎症マーカー、L/H比など)や、実際にどのような食生活を送っているのかを総合的に評価し、かかりつけ医とよく相談しながら、どこまで数値をコントロールすべきか、どのような対策が最適かを見極めていくことが大切です。
良質な脂質を摂るという食生活の方向性は決して間違っていませんので、根気強く続けながら、他の生活習慣(ストレス管理、睡眠の質、運動習慣など)も見直してみましょう。
◆ パターン②:「糖質制限を始めたら、中性脂肪は劇的に下がったけど、コレステロール値(特にLDL)が急上昇した!?」
「糖質制限ダイエットを実践したら、悩みの種だった中性脂肪の値は面白いように下がって大喜び!でも、その代わりにLDLコレステロールが今まで見たことないくらい高い数値になってしまって…これって、体に悪いことが起きているんでしょうか?」
これも、特に糖質制限(ローカーボダイエット)を始めた方から非常によく聞かれるお悩みの一つです。
糖質を大幅に制限すると、私たちの体は主なエネルギー源をブドウ糖から脂肪酸やケトン体へと切り替えます。その結果、体脂肪が燃焼しやすくなり、血中の中性脂肪値は比較的速やかに、そして顕著に低下する傾向があります。
これは糖質制限の大きなメリットの一つと言えるでしょう。
一方で、LDLコレステロール値が一時的に、あるいはある程度の期間上昇することが報告されています。これにはいくつかのメカニズムが関わっていると考えられています。
一つは、体脂肪が分解されてエネルギーとして使われる際に、脂肪細胞に蓄えられていたコレステロールが血液中に動員されるため、という説。
また、食事からの糖質摂取が減ることで、肝臓でのコレステロールや中性脂肪の代謝経路が変化し、LDLコレステロールの産生や血中での滞留時間に影響を与える可能性も指摘されています。
さらに、体が主なエネルギー源として脂質を効率よく利用するために、LDL粒子がコレステロールを全身の細胞へより活発に運搬している状態を反映している、とも考えられます。
この場合、最も重要なのは、上昇したLDLコレステロールの「質」と、他の検査数値との総合的なバランスです。
糖質制限と同時に、質の悪い脂質(前々回にお話ししたトランス脂肪酸や過度に酸化した油、質の低い飽和脂肪酸など)を大量に摂取しているような食生活であれば、それは動脈硬化のリスクを高める可能性があります。
しかし、良質な脂質(オメガ3系脂肪酸、エクストラバージンオリーブオイル、アボカドなど)を中心に、十分な量の野菜や良質なタンパク質もバランス良く摂取しているような健康的な糖質制限であれば、LDLコレステロールの一時的な上昇はそれほど心配しなくても良いケースも多いと言われています。
この場合、注目すべきはHDLコレステロール値が維持または上昇しているか、L/H比が悪化していないか、中性脂肪が極端に低くなりすぎていないか(前回の内容を思い出してください)、炎症マーカー(CRPなど)が上昇していないか、といった点です。
ただし、極端すぎる糖質制限や、栄養バランスを無視した自己流の食事法は、かえって健康を損なうリスクも伴います。
LDLコレステロールが異常に高い値(例えば200mg/dLを超えるなど)で持続する場合や、体調に不安を感じる場合は、必ず医師や専門知識を持つ管理栄養士に相談し、食事内容や進め方について指導を受けるようにしてください。
◆ パターン③:「脂質の摂取はかなり控えているし、運動もしているのに、なぜかコレステロール値が高い。特にHDL(善玉)が低くてLDL(悪玉)が高いバランスなのが気になる…」
「揚げ物はもう何年も食べていないし、お肉より魚を選ぶようにしています。お菓子もほとんど食べませんし、週に3回はジムで運動もしているのに、なぜかコレステロール値、特にLDLが高いままで、HDLは低いんです…どうしてなんでしょうか?」
これもまた、非常によくあるご相談の一つです。
ご本人は食事にかなり気を使っていて、脂質を控えている「つもり」でも、なかなか検査結果に結びつかず、むしろ脂質バランスが悪化しているように見えるケースです。
この場合、まず疑うべきは、「控えているつもり」でも、実は無意識のうちに質の悪い脂質を摂取してしまっている可能性です。
具体的には、
パンやクッキー、ケーキなどの洋菓子、スナック菓子、加工食品(インスタント食品、レトルトカレー、冷凍食品など)に多く含まれるトランス脂肪酸や、安価な揚げ油として使われやすいパーム油(飽和脂肪酸の割合が高い)。
市販のドレッシングやマヨネーズ、炒め物などに日常的に使っている一般的な植物油(サラダ油、大豆油、コーン油など)の使いすぎ。これらはオメガ6系脂肪酸が多く、過剰摂取は炎症を促進し、HDLコレステロールを低下させる可能性があります。
ナッツ類は体に良いとされていますが、揚げて味付けされたものや、開封してから時間が経って酸化してしまったものは逆効果になることも。
外食や中食(コンビニ弁当やお惣菜など)の頻度が高く、そこでどのような種類の油が、どのような状態で使われているか把握できていない。
これらの「見えない脂質」や「質の悪い脂質」が、知らず知らずのうちにLDLコレステロールを上昇させ、同時にHDLコレステロールを低下させる大きな原因になっていることがあります。
特に、HDLコレステロールが低く、LDLコレステロールが高い(つまりL/H比が著しく悪い)という状態は、摂取している脂質の「種類」と「質」に大きな改善の余地があるという体からの重要なサインと捉えるべきです。
オメガ3系脂肪酸(青魚、アマニ油、えごま油など)の摂取が十分に足りているか、一方でオメガ6系脂肪酸を多く含む油や加工食品を摂りすぎていないか、もう一度ご自身の食事内容を細かく、正直にチェックしてみましょう。
また、コレステロールの排出を助ける食物繊維(特に水溶性食物繊維)の摂取不足も、コレステロール値に影響を与えている可能性があります。
さらに、まれではありますが、甲状腺機能の低下(橋本病など、特に女性に多い)があると、体全体の代謝が低下し、その結果としてコレステロール値が高くなることもあります。
食事や運動に気を使っても長期間改善が見られない場合は、一度、医師に相談して甲状腺ホルモンの検査を受けてみるのも一つの選択肢かもしれません。
◆ まとめ:データは体からのメッセージ! 個別性を理解し、総合的に読み解こう
今回は、少しイレギュラーとも言える血液検査のパターンを3つご紹介しました。
これ以外にも、様々な要因が絡み合って、教科書通りとはいかない結果が出ることは珍しくありません。
大切なのは、一つの数値に一喜一憂したり、自己判断で極端な対策に走ったりするのではなく、ご自身の体質、日々の生活習慣、そして他の検査データ(炎症反応、血糖値、肝機能など)と合わせて、総合的に結果を読み解く視点を持つことです。
そして、疑問や不安な点があれば、抱え込まずに信頼できる医師や管理栄養士などの専門家に相談する勇気も持ちましょう。
さて、ここまで数回にわたり、脂質の種類から始まり、血液検査データの基本的な見方、そして今回のような少しトリッキーなパターンの解釈まで、脂質に関する情報を多角的にお届けしてきました。
次回は、いよいよこの脂質シリーズの総まとめとして、健康的な脂質バランスを保ち、理想の体を手に入れるためのポイントを改めて整理し、皆さんが日々の生活で具体的に実践できるアクションプランを分かりやすくお伝えしたいと思います!
どうぞお楽しみに!
ありがとうございました。
でわ。
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